東京地方裁判所 昭和33年(行)138号 判決 1967年5月17日
東京都中央区日本橋蛎殻町三丁目一〇番地
原告
株式会社半沢エレガンス
右代表者代表取締役
半沢実
右訴訟代理人弁護士
中条政好
被告
日本橋税務署長
溝口善次郎
右指定代理人
川村俊雄
長谷川謙二
広瀬正
坂井正夫
中田一男
主文
被告が昭和三二年一一月二七日付で原告の昭和二七年一〇月一日より昭和二八年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正決定を取り消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
当事者双方の申立、事実上及び法律上の主張は別紙のとおりである。
証拠として原告訴訟代理人は甲第一号証乃至第六号証、第七号証の一乃至五を提出し、証人大木林之助、同花井清太郎の各証言を援用し、乙第一四号証の成立は不知、第一〇号証乃至第一三号証の各成立並びにその余の乙号証の原本の存在及び成立はいずれも認めると述べ、
被告指定代理人は乙第一号証乃至第三号証の各一乃至四、第四号証の一、二、第五号証の一乃至四、第六号証乃至第八号証の各一、二、第九号証の一乃至四(以上の書証はいずれも写)、第一〇号証乃至第一四号証を提出し、証人中山五郎の証言を援用し、甲第七号証の一乃至五の成立はいずれも不知、その余の甲号証の成立は認めると述べた。
理由
一、被告が原告の請求原因第一、二項記載の経過で原告の昭和二七事業年度及び昭和二八事業年度の法人税について各更正、決定を行い、原告が不服申立手続を経由したことは当事者間に争いがない。そこで以下本件各争点について判断する。
二、原告は被告の本件各処分が法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの、)三一条の二に定める確定申告書提出期限後三年以上を経過した後になされたものである(この点は当事者間に争いがない。)から違法であると主張するが、同条の二の一項但書によれば詐偽その他不正の行為により法人税を免れたと認められる場合等においてはこの限りではないと定められているところ、原告は後記のとおり、昭和二七事業年度の法人税額について詐偽その他不正の経理を行い内容虚偽の申告書を提出して法人税を免れたことが認められるから、被告のした昭和二七事業年度の法人税についての更正決定がこの点において違法であるということはできない。(昭和二八年事業年度分については、後記のとおり判断の必要がない。)
三、更正理由の欠缺、不備について。
(一) 昭和二七事業年度の法人税にかかわる更正、決定に理由の附記がないこと、及び原告が同事業年度以降の法人税につき青色申告書提出の承認申請書を提出したのは原告の同事業年度開始後約二ケ月半を経過した昭和二六年一二月一八日であることはいずれも当事者間に争いがないところ、原告は、昭和二七事業年度に原告が青色申告法人であることを前提に、被告の更正、決定が理由の欠缺、不備により違法であると主張する。
しかしながら法人税法(昭和二八年法律第一七四号による改正前のもの)二五条三項は、青色申告書提出の承認を受けようとする法人は、青色申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までにその申請書を提出しなければならないと定めているところ、原告は昭和二七事業年度開始後約二ケ月半を経過したのちに申請書を提出したのであるから、同条の規定によつて明らかなように、原告が同事業年度について青色申告書提出の承認を受けているものということはできない。更に原告は当時において青色申告制度の利用を奨励、普及するため、事業年度開始後に申請書が提出されても、二ケ月位は猶予して当該事業年度より青色申告法人として扱うという取り扱いがされていたから原告はこれにより青色申告法人となつたと主張するけれども、証人中山五郎の証言によれば、右のような取り扱いは新設会社についてのみ事業年度開始後二ケ月を限つて認められたものであつて、それ以外の法定の期限後に提出された申請は便宜翌事業年度からの青色申告書提出の承認申請として取り扱われ、これに従つて原告の申請も翌事業年度以降の申請として取り扱われたものであることが認められ、原告主張のような取扱いがなされたことを肯認するに足る証拠がないので、原告の右主張も採用することはできず、結局原告は昭和二七事業年度においては青色申告法人ではないというのほかない。
従つて同事業年度において原告が青色申告法人であることを前提とする原告の主張は理由がない。
(二) 昭和二八事業年度において原告が青色申告法人であること、同事業年度の法人税の更正、決定の附記理由が「定期預金計上洩一、五〇〇、〇〇〇、事業税認定損△一一七、六八〇、利子認定取消△五四、〇〇〇」と記載されているのみであることは当事者間に争いがない。そこで右程度の記載が前記法人税法三二条の定めるところに反するか否かを判断する。
元来、青色申告の制度は、納税義務者に対し一定の帳簿書類の備付、記帳を義務付けており、その帳簿を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものと解せられるから、同法三二条が青色申告の更正につき附記すべきものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解するのが相当である。すなわち、青色申告の場合において、若しその帳簿の全体について真実を疑うに足りる不実の記載等があつて、青色申告の承認を取消す場合は格別、そのようなことのない以上、更正は、帳簿との関連において、いかなる理由によつて更正するかを明記することを要するものと解すべきであり、また更正の理由附記は、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりのない問題といわなければならない(最高裁判所昭和三八年一二月二七日第二小法廷判決、民集一七巻一二号一八七一頁参照)。
これを本件についてみるのに、本件更正の理由として「定期預金計上洩一、五〇〇、〇〇〇」との記載だけでは、右金額が何故に当該年度中における原告の益金に算入されなければならないかという根拠を具体的に明らかにしたものとはいえず、理由として極めて不備であつて、右の記載をもつて同法三二条の要求する理由を附記したものと解することはできない。被告は、右の記載が原告の預金であることを認めた趣旨のものであることを原告において十分了知していたと主張するが、そのような主張が理由附記にかかわりのないものであることは先に言及したとおりであり、また、仮に被告の主張するとおり昭和二八事業年度に発生した定期預金が一口であつたとしても、右の結論を左右するものではない(なお成立に争いのない乙第一号証乃至第三号証の各一乃至四及び乙第五号証の一乃至四によれば、昭和二八事業年度中には昭和二八年八月二六日発生の第二六回福徳定期第五〇〇一号、一、五〇〇、〇〇〇円の外にも、前事業年度に発生した預金の振替ではあるけれども、同年三月中に一、〇〇〇、〇〇〇円二口、五〇〇、〇〇〇円一口の定期預金が預け入れられていることが認められる。)。従つて、昭和二八事業年度の法人税の更正、決定については、その理由附記の要件を欠く違法があるといわざるを得ず、その余の主張を判断する迄もなく原告の請求はこの点について理由があるものというべきである。
四、所得金額について。
成立に争いのない乙第一号証乃至第三号証の各一乃至四、同第四号証の一、二、同第五号証の一乃至四、同第六号証乃至第八号証の各一、二、同第九号証の一乃至四によれば、株式会社日本勧業銀行横山町支店において、(1)昭和二七年九月八日第二〇回福徳第五七九号として金額一、〇〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金が発生し、右預金は昭和二八年三月一二日第二三回福徳第五八〇号金額一、〇〇〇、〇〇〇円に、そして更に同年一〇月二六日第二六回福徳第六四四号金額二、五〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金の一部に、それぞれそのまま振替えられていること、(2)昭和二七年九月二六日に第二〇回福徳第六三八号金額一、〇〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金と、同第六三九号金額五〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金が発生し、右各預金は昭和二八年三月二七日第二三回福徳第六三五号(金額一、〇〇〇、〇〇〇円)及び同第六三六号(金額五〇〇、〇〇〇円)、そして更に同年一〇月二六日前記第二六回福徳第六四四号金額二、五〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金の一部に、それぞれ、そのまま振替えられていること、(3)昭和二八年八月二六日第二六回福徳第五〇〇一号金額一、五〇〇、〇〇〇円の定期預金が発生し、右預金は昭和二九年二月二六日第二八回福徳第六四六号の定期預金にそのまま振替えられていること、(4)前記第二六回福徳第六四四号金額二、五〇〇、〇〇〇円の無記名定期預金は昭和二九年五月六日に、前記第二八回福徳第六四六号金額一、五〇〇、〇〇〇円の定期預金は同月二六日に(期限前解約により)、いずれも支払われていること、(5)昭和二八年三月二七日の前記(2)の預金の各振替払に際してはいずれも株式会社半沢商店社長之印の印影が、昭和二九年五月六日の前記(4)の二、五〇〇、〇〇〇円の預金の支払いに際しては株式会社半沢商店取締役社長印の印影が、昭和二九年二月二六日の前記(3)の預金の振替払及び同年五月二六日の前記(4)の一、五〇〇、〇〇〇円の預金の支払いに際してはいずれも半沢取締の印影がそれぞれ使用されたこと(なお株式会社半沢商店は当時の原告の商号である。)が認められる。
そして、証人中山五郎の証言によれば、右印影はいずれも原告が税務署に対して提出した書類において使用されているものと同一であり、前記昭和二九年五月中に支払われた合計四〇〇万円は銀行に対する原告の債務の支払いに充てられたことは当事者間に争いのないところ、成立に争いのない乙第一一号証、同第一三号証、証人大木林之助の証言によりその成立が認められる乙第一四号証に証人中山五郎の証言を綜合すれば、右債務の支払いに充当した際は半沢厳ではなく当時の原告会社の代表取締役であつた岩崎英祐と半沢克巳がその衝に当つたものであつて、この会計処理については前記各預金が原告会社の帳簿に記載されていなかつたため架空名義である黒沢に対して二、五〇〇、〇〇〇円、現実に金を支出していない金井に対して一、五〇〇、〇〇〇円の借入金勘定をたてたうえ、後の昭和三〇年九月に至りこれを別途積立金として振替えたことが認められる。右各認定を覆すに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、前記各預金は原告が主張するように半沢厳に帰属するものではなく、原告会社に帰属するものであることが認められる。右認定に反する認人大木林之助の証言は信用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。原告はこれら定期預金は借入金等によつてなされたものであると主張するが、本件全証拠によつても右主張を裏づけるに足りるような事実を認めることはできない。
そうであるとすれば、昭和二七事業年度中に勧業銀行横山町支店に預け入れた原告の無記名定期預金合計二、五〇〇、〇〇〇円は、前記認定のような発生の時点及び振替の経過ならびに右預金が当該事業年度以外の事業年度の原告の所得をもつてあてられたものと認めるに足りる事情の存しないことをあわせ考えると、昭和二七事業年度中に生じた原告の所得をもつてあてられたものと推認すべく、これを加算した被告の処分は、正当であり恣意不公正に基くものとはいえず、適法というべきである。そして前記乙第一三号証、同第一四号証及び証人中山五郎の証言によれば、右金額を除外して行つた同事業年度の原告の経理には詐偽その他不正の行為が存在することが認められるのであつて、原告の法人税の確定申告書は内容虚偽のものというべく、重加算税額五二三、〇〇〇円の賦課決定は適法というべきである。
なお別途積立金についての原告の主張(事実摘示第五の三、3記載)について判断すると、本件における別途積立金の発生経過は前認定のとおりであつて、本件各預金は利益に計上されていないのであるから、原告の主張は全く理由がないというべきである。
五、以上のとおり、原告の請求は、昭和二八事業年度の法人税の更正、決定の取り消しを求める部分については理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 緒方節郎 裁判官中川幹郎、同前川鉄郎は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 緒方節郎)
別紙
第一 当事者双方の申立
一、原告
1、被告が昭和三二年一一月二七日付で原告の左記各事業年度分法人税についてした各更正、決定を取り消す。
(一) 昭和二六年一〇月一日より昭和二七年九月三〇日までの事業年度
(二) 昭和二七年一〇月一日より昭和二八年九月三〇日までの事業年度
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
二、被告
1、原告の請求をいずれも棄却する。
2、訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 原告の請求原因
一、原告は、昭和二六年一〇月一日より昭和二七年九月三〇日までの事業年度(以下、昭和二七事業年度という。)分法人税につき、昭和二七年一一月二九日被告に対し、所得金額二、三七一、六〇〇円、法人税額九九六、〇七〇円として確定申告したところ、被告は、昭和二八年一月三一日、同年七月三一日と二回にわたり更正し、さらに昭和二八年八月三一日に所得金額四、四二一、九〇〇円、積立金額三〇四、五〇〇円、法人税額一、八七二、四二〇円と更正し、その後さらに昭和三二年一一月二七日所得金額六、九二一、九〇〇円、積立金額二三九、六〇〇円、法人税額二、九一九、一七〇円とし、重加算税額五二三、〇〇〇円とする更正、決定をした。右更正、決定に対し、原告は昭和三二年一二月二七日に再調査の請求をし、法人税法第三五条第三項第二号により審査請求とみなされ、東京国税局長は、昭和三三年一〇月八日審査請求を棄却する旨の決定をした。
二、原告は、昭和二七年一〇月一日より昭和二八年九月三〇日までの事業年度(以下昭和二八事業年度という。)分法人税につき、昭和二八年一一月三〇日被告に対し、所得金額二、四二二、七六四円、積立金額一、八四一、七〇〇円法人税額一、一〇九、六〇〇円、として確定申告したところ、被告は昭和二九年三月五日に所得金額二、七二七、六〇〇円、積立金額一、八五七、三〇〇円、法人税額一、二三八、四五〇円と更正し、さらに昭和三二年一一月二七日所得金額四、〇五五、九〇〇円、積立金額二、六七〇、二〇〇円、法人税額一、八三六、九八〇円とし、重加算税額二九九、〇〇〇円とする更正、決定をした。右更正決定に対し、原告は昭和三二年一二月二七日に再調査の請求をし、法人税法第三五条第三項第二号により審査請求とみなされ、東京国税局長は、昭和三三年一〇月八日審査請求を棄却する旨の決定をした。
三、しかし、被告が昭和三二年一一月二七日にした各事業年度分法人税に関する更正、決定は、次に述べる理由によつて、いずれも違法である。
1、更正期間の徒過
法人税法第三一条の二によれば、確定申告書提出期限後三年以上経過した後は、更正処分をすることはできないこととなつているが、原告の昭和二七事業年度分法人税の確定申告書提出期限は昭和二七年一一月三〇日であり、昭和二八事業年度については、昭和二八年一一月三〇日であるから、昭和三二年一一月二七日になされた前記各更正、決定は、確定申告書提出期限後三年以上を経過してなされたもので、いずれも違法である。
2、更正理由の欠缺、不備
原告は、昭和二六年一二月一八日付で青色申告書提出の承認を受けているものであるから、法人税法第三二条により、昭和二七、二八各事業年度分法人税につき更正をした場合、その通知書には理由を附記しなければならないのに、昭和三二年一一月二七日付の各更正決定通知書には、昭和二七事業年度分については、全く理由の記載がなく、昭和二八事業年度分については、「定期預金計上洩一、五〇〇、〇〇〇、事業税認定損△一一七、六八〇、利子認定取消△五四、〇〇〇」と記載してあるだけで、右数額認定の理由、根拠は何も示されておらず、右各更正決定は更正理由の附記を欠き、または不備であつて、いずれも違法である。
3、認定所得額の過大
原告は、昭和二七事業年度については、昭和二八年八月三一日の更正処分認定額、昭和二八事業年度については、昭和二九年三月五日の更正処分認定額をそれぞれ超える所得金額はないから、昭和三二年一一月二七日付各更正、決定は、いずれも違法である。
4、処分の恣意性
被告は、本件各更正決定につき、当初より原告に対し更正理由を正確に開示せず、原告の主張ないし弁明に対して認否や判断を避け、昭和二七事業年度については四回、昭和二八事業年度には二回も更正を行い、さらに翌期の昭和二九事業年度については、昭和三〇年一二月二六日付更正に対する訴訟係属中の昭和三二年一一月二七日右更正決定を取り消すと同時に、改めて同日付で昭和二七ないし二九事業年度について更正を行い、このため原告の受けた迷惑、損害は重大であり、被告の処分は全体として慎重を欠き公正が見られず、恣意に出たもので違法である。
第三 請求原因に対する被告の答弁
請求原因第一、第二項の事実を認める。同第三項の事実中、各事業年度の確定申告書提出期限が原告主張のとおりであること昭和三二年一一月二七日付各更正、決定通知書に、昭和二七事業年度分には更正理由の附記がなく、昭和二八事業年度分の附記理由が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。
第四 被告の主張
一、更正期間について。
法人税法第三一条の二によれば、更正は原則として確定申告書提出期限後三年を経過した後は、これをすることができないこととなつているが、しかし、詐偽その他不正の行為により法人税を免れた場合等においては、右期間経過後においても更正をすることは許されており、原告は昭和二七、二八各事業年度分法人税につき、課税標準及び法人税額について、内容虚偽の申告書を提出する等して法人税を免れたのであるから、同条第一項但書により、確定申告書提出期限後三年を経過した後になされた各更正決定に、原告主張のような違法はない。
二、更正理由の附記について。
1、法人税法第二五条第三項によれば、青色申告書提出の承認を受けようとする法人は、青色申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までに、その申請書を提出しなければならないと規定されているところ、原告が昭和二七事業年度分以降の法人税につき青色申告書提出の承認申請書を提出したのは、昭和二七事業年度開始後約二カ月半を経過した昭和二六年一二月一八日であるから、元来右承認申請書は適法なものとして受理すべきものではなかつたのであるが、便宜これを翌事業年度分についての申請書として取り扱い処理したに過ぎず、従つて、昭和二七事業年度については、原告は青色申告法人ではないから、その更正通知書に理由の附記を要するものでなく、本事業年度分法人税更正決定通知書に理由の附記を欠いても、なんら違法ではない。
2、昭和二八事業年度分法人税の更正には理由の附記を要するところ、昭和三二年一一月二七日付更正決定通知書に附記された理由は、原告主張のとおりであるが、青色申告法人に対する更正決定通知書に理由を附記すべきものとする法の趣旨は、青色申告法人は、法規に定められた帳簿書類を備え付け、整備することが求められるものであるから、その申告を否認し、更正する場合には、いかなる勘定科目につきどのような認定を受けたかを当該法人に分からせるのを妥当とするということに出たもので、従つて、勘定科目と加除すべき金額を更正の理由として明示すれば、理由の附記に欠けるところはないと解すべきであるから、前記通知書の理由の附記に違法はない。
しかも、問題の「定期預金計上洩一、五〇〇、〇〇〇」についていえば、右が株式会社日本勧業銀行横山町支店の無記名定期預金一、五〇〇、〇〇〇円を原告の預金と認めた趣旨であることは、調査の経緯よりして原告においても十分了知していたものであり、数多くの銀行に対し、いろいろな名義の預金が存在していたような場合であれば、そのうちどの預金を計上洩としたかについてこれを明らかにするよう理由を記載しなければならないとしても、本件の如くただ一口の預金のみに関する更正においては、右の程度の記載をもつて、原告に訳の分らない更正とはいえず、これをもつて理由不備の違法があるということはできない。
三、所得金額について。
1、昭和二七事業年度分法人税に関する昭和三二年一一月二七日付更正決定の認定所得金額六、九二一、九〇〇円は、原告の争わない所得金額四、四二一、九〇〇円(昭和二八年八月三一日付更正認定額)に、原告が本事業年度中に勧業銀行横山町支店に預け入れた次の無記名定期預金合計二、五〇〇、〇〇〇円を加算して算出したものである。
預入月日 名称及び番号 金額 (円)
二七・九・八 第二〇回福徳定期第五七九号 一、〇〇〇、〇〇〇
〃 九・二六 〃 第六三八号 一、〇〇〇、〇〇〇
〃 九・二六 〃 第六三九号 五〇〇、〇〇〇
合計 二、五〇〇、〇〇〇
2、昭和二八事業年度分法人税に関する昭和三二年一一月二七日付更正決定の認定所得金額四、〇五五、九〇〇円は、原告の争わない所得金額二、七二七、六〇〇円(昭和二九年二月二五日付更正認定額)に、原告が本事業年度中に勧業銀行に預け入れた次の無記名定期預金一、五〇〇、〇〇〇円を加算し、貸付金利子認定取消五四、〇〇〇円及び事業税認定損一一七、六八〇円をそれぞれ除算して算出したものである。
預入月日 名称及び番号 金額(円)
二八・八・二六 第二六回福徳定期第五〇〇一号 一、五〇〇、〇〇〇
3、昭和二七事業年度中に発生した二、五〇〇、〇〇〇円及び昭和二八事業年度中の一、五〇〇、〇〇〇円の前記各定期預金は、いずれも原告の帳簿に記帳されていないが、その後原告は、これら各定期預金を昭和二九年五月六日解約し、この資金をもつて勧業銀行横山町支店からの借入金の弁済にあてたが、右預金は帳簿に記帳されていないので、原告は帳簿処理上右預金の解約による入金を借入金による入金と仮装して記帳し、翌三〇年九月三〇日右架空借入金を別途積立金に振替えた。即ち、原告はこれら簿外預金を昭和三〇年九月三〇日に利益の留保(別途積立金)として帳簿に計上したのであり、しかもこれら各預金の払出につき、原告会社社長の印や「半沢取締」などの印鑑が使用されており、これらによれば、右各預金が原告のものであることは明らかであるから、被告はこれら各預金を、その預入日を含むそれぞれの事業年度の益金に加算したのである。
四、処分の正当性
以上の次第で、本件各更正、決定は正当であつて、原告主張のような恣意、不公正はない。
第五 被告の主張に対する原告の答弁
一、更正期間について。
被告は、原告が詐偽その他不正の行為により法人税を免れたものであるから、三年の更正期間の制限を受けないと主張するが、原告にかかる事実はなく、被告の指摘する無記名定期預金は原告のものではなく、また仮りにこれが原告に帰属するものとしても、右無記名定期預金は、原告の脱洩所得として所得金額に加算さるべきものでないことは、後に述べるとおりであるから、右事実を捉え、原告が詐偽その他不正の行為により法人税を免れたとする被告の主張は失当である。
二、更正理由の附記について。
1、原告が昭和二七事業年度分青色申告書提出の承認申請書を、右事業年度開始後の昭和二六年一二月一八日に提出したことは、被告の主張のとおりである。
しかし、青色申告制度は、昭和二五年四月一日施行の同年法律第七二号による法人税法の改正によつて創設されたもので、当初は青色申告制度の利用を奨励、普及するため、事業年度開始後に承認申請書が提出された場合であつても、二カ月位は猶予して、当該事業年度より青色申告書を提出することを承認する取扱いがなされ、原告も、これにより昭和二七事業年度より青色申告法人となつたものであるから、同事業年度の更正、決定の通知書に理由の附記を要するのであつて、これを欠く処分は違法である。
2、被告は、昭和二八事業年度分法人税に関する昭和三二年一一月二七日付更正決定通知書に附記された理由をもつて、理由附記の要件を満すものと主張するが、青色申告法人に対する更正の通知書に理由の附記を要するのは、これによつて課税庁の調査、判断を慎重ならしめ、その恣意を禁じて、処分の公正と合理性を保障するとともに、その結論に到達した理由を納税者に知らせ、不服申立の便宜に供することにあるのであるから、附記すべき理由は、結論に到達した過程及び根拠をも含めて記載されなければならない。
しかるに、右更正決定通知書に附記された理由は、前記のとおりであつて、結論に到達した過程、理由はなにも示されておらず、著しく不備であつて、違法である。すなわち、問題の無記名定期預金が存在することは、昭和二七年に行われた被告の調査以来明らかなところ、被告もこれを原告会社前社長半沢厳個人のものと見ていたのに、昭和三二年一一月二七日の更正決定において、突如これを原告の計上洩預金と認定したのであるが、前記附記理由には、何故右定期預金を原告に帰属するものと判断し、且つ右定期預金が原告の如何なる計上洩収入によつて発生したのかについて、その理由、根拠はなにも示されておらず、法の定める理由附記の要件を満すものでないことは明らかである。
三、所得金額について。
1、昭和二七、二八事業年度に被告主張の計上洩無記名定期預金が存在したことを否認し、昭和二八事業年度における被告主張の貸付金利子認定取消は争わず、また事業税認定損は、前期分所得金額が、仮りに被告主張のとおりであれば、被告主張のとおりになることは認める。
2、被告主張の各無記名定期預金は、次に述べる理由により、原告の所得に加算さるべきものではない。
(一) 被告主張の各無記名定期預金は、原告会社社長亡半沢厳個人のものである。すなわち、原告会社は、昭和二五年一二月一日資本金九〇〇、〇〇〇円をもつて設立され、その後昭和二七年二月二〇日に一、八〇〇、〇〇〇円、同年六月一二日に三、六〇〇、〇〇〇円に増資されたが、その大部分(推計三、〇七六、四〇六円)が設備資金として固定し、他は全部運転資金となつたもので、当時なお運転資金の不足額が常時一六、〇〇〇、〇〇〇円ないし一七、〇〇〇、〇〇〇円に達し、そのためこれを支払手形、買掛金、借入金、未払金等の勘定操作によりまかなつていたもので、被告主張のような定期預金をする余裕はなかつたのであるが、半沢厳は十分の資産を有していたため、その資産の一部を前記無記名定期預金にして、原告会社の当座取引の保証として日本勧業銀行横山町支店に預金していたものである。
被告は、右預金が原告の債務と相殺されていることをもつて、これを原告のものと認定するようであるが、右相殺は、日本勧業銀行において、昭和二八年一〇月一日右半沢が脳溢血で倒れたため原告会社は解散を免れないものと誤信して、原告に対する債権を早期に回収する目的で、担保に供されていた前記各定期預金と同銀行の原告に対する債権とを相殺したものであるから、これをもつて、右各定期預金を原告のものと判断することは失当である。
(二) 仮りに、右各定期預金が原告に帰属するものとしても、原告の前記資金状態よりして、これら定期預金は、借入金等負債に属する資産をもつてなされたことは明らかであるから、右定期預金額を原告の所得に加算することは許されない。
(三) 法人税の課税対象たる所得は、総益金から総損金を控除した金額であるが、原告のような物品の製造販売会社における総益金は、当該事業年度における売上高、損益計算上営業外収益として計上すべき受取利息、割引料等の収入及び法人税法上特に益金に算入すべきものとされる金額を指し、預金の如きは、総益金に算入さるべきものではないから、被告が前記無記名定期預金を原告の所得に加算したのは、益金不算入金額を益金に算入したものであつて、二重に課税するものであり、違法である。
3 被告は、原告が前記各定期預金を解約し、これによる入金を借入金として仮装記帳した上、右借入金を別途積立金に振替えているから、右定期預金を各事業年度の益金に加算すべきことは当然であると主張する。しかし、
(一) 原告の昭和二七事業年度の別途積立金累計二、三〇四、四〇三円及び昭和二八事業年度の別途積立累計三、八五二、七九一円は、請求原因第一、第二項記載のとおり、原告は右両事業年度につき数度の更正を受けたが、昭和二七事業年度については、昭和二八年八月三一日付更正まで、昭和二八事業年度については、昭和二九年三月五日付更正に対し、いずれもこれを争わず、更正による税額を納付したので、これを帳簿上整理するため、各事業年度毎に更正額に合致するよう売上高を逆算して所得金額を増加した上、これより法人税、事業税、都民税を控除し、その残額を利益金として配当せず、別途積立金として留保したものであるから、右積立金は被告主張の各定期預金とはなんの関係もなく、被告の主張は失当である。なお、原告は、被告主張のように架空の借入金を設けたことはない。
(二) 別途積立金は、本来各事業年度に生じた総益金より総損金を控除した利益剰余金につき、剰余金処分を行つて設けた社内留保資産であるから、別途積立金の計上金額を所得に加算することは許されない。
第六 原告の答弁に対する被告の反論
一、原告は、預金は、益金に算入すべき科目ではないから、これを所得に加算することは違法であると主張する。預金が損益計算の面から表現された所得の変形である場合、すなわち、損益計算と財産計算とが合致する場合であれば、預金を所得に加算し得ないことは原告主張のとおりであるが、預金が損益計算に表現された所得の変形ではない場合、すなわち損益計算に表現されていない資産の増加があつた場合には、本来損益計算によつても、財産計算によつても法人所得には変りがなく、一致すべきものであるから、右預金、すなわち純資産の増加を所得に加算すべきことは当然である。前記各無記名定期預金は、正に後者の場合であるから、これを所得に加算した被告の認定に原告主張のような違法はない。
二、原告が別途積立金を利益剰余金の処分による社内留保資産であると主張する点は、抽象的定義としては争わないが、しかし本件の場合は、会社の利益に計上され、その利益の処分という手続を経ていないものであつて、別途積立金という名称を使用していたとしても、その内容は全く異なるものであるから、当然益金に算入さるべきものである。